廓の華
誤算〜ごさん〜(久遠視点)
《酔っ払いをしずめた揚屋の一件の翌日》


 尾行されている。

 遊郭の門を出たあたりから気配は感じていた。人から恨まれる仕事ばかりしてきたが、足取りは同業者ではない。歩幅や足音からして男のようだ。

 素知らぬふりで歩き続ける。そして、角を曲がった瞬間に駆け出した。

 予想通り俺を追っているようで、背後の足音も速くなる。

 ひとけのない場所に誘導し、道端に生える木に身を潜めた。奴は目的を見失って動揺しているらしい。


 影が通りかかった瞬間、抜刀する。

 視線をやると、刀を喉元に突きつけられているのは同い歳くらいの若い男だった。

 赤茶の髪をきっちりと結い、清潔感のある美丈夫だ。二重の大きな瞳が見開かれている。

 記憶を探るが会話を交わしたことはない。

 誰だ、この男。

 向こうも帯刀しているが、抜く気はないようだ。敵意がないと察して、こちらも刀をしまう。


「なにか用か?」


 返答によってはここで始末する。

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