王女ちゃんの執事1『で・eye』加藤さん、きれいです。
 目の前の男をぶんなぐりたがる手は握りしめたものの、実はそうでもしなければ、逆にすがりつくかもしれない今の状況。
「うん」
 作りこんだかわいこちゃんモードでうなずくと、木村はなぜか視線をふせた。
「東大」
 ――――は?
 聞こえた音の意味するものを理解したときには、木村の姿はもう廊下に消えていて。
「なんだっ、てえええええ!?」
 髪の毛をかきむしりながら、本日2度目の絶叫をかましたおれは、その18分後にはガイコツマンを前に、腹話術の人形のようにアゴを落としていた。



「どうしました加藤くん。書類は確かに受け取りましたよ。ほかになにか、ご用でも?」
「…………」
 いやセンセ、だってここは止めるところでしょ。
 ほら、大学の正式名すら書いてないし。
 進学率を落とすのは許さん! と、おっしゃったのは、そちら様ですよ。
 口をぱくぱくするだけで出てこない言葉に身もだえるおれに、ガイコツマンがにたりと笑う。
「しかしこうなると、夏の補講はすべて受けていただいたほうがよろしいでしょうねぇ。ほれ、時間割と受講料振込み票、用意してございますよ。まだ充分まにあいますから、私もお電話して。保護者のかたにしっかり! 事情を説明しましたら、万全のサポート体制を取らせていただきますから。がんばってくださいね、ミスタ・アリ・カトウ」
「…………」
「ん? まだなにか?」
「…………」
 ハマッた。

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