王女ちゃんの執事1『で・eye』加藤さん、きれいです。
 なにしろそのとき、おれの常識の範囲に収まっていたのは、開いたら閉まる、当たり前のことをしているその無機物だけだったから。
「ちく…しょ。まだ、い、るよっ」
 頭を抱えたまま男がうなる。
「そりゃいるよ。先に乗ってたの、おれだし」
 ふつうに返事をする自分にも、もう驚けない。
 人間、理解を越えた事態に遭遇すると、とりあえず己の原点に返るらしい。
 つまり、おれの場合は〈ナチュラルボーン・名なしの通行人〉。
「――え? ……あ! わっっ」
 常に主役を張ってきたんだろう異世界人は3段飛びで我に返ったようだ。
 目の前を暴走自転車に横ぎられたときのように跳びすさって、すでに閉まっているドアに背中から激突。
「くぅ……」
 いや、そんなに大げさにうめくようなことじゃねえじゃん。とか。
 冷静に見下ろせている自分に感動だ。
 おれってパニック状態でも生き残れるタイプかも。
「うそ! 来る!」
 うめいていた男が突然ぶるりと身体を震わせた。
 見るからにパニくった様子で立ち上がる。
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