王女ちゃんの執事1『で・eye』加藤さん、きれいです。
「ありゃ。やーっぱ町田だあ。うわぁー。そっかー。町田って、こっち系だったんだー。なーんか変わってると思ってたけどさー。ふーん、ふーん。――ってか、下?」
 はいィ?
 こくりと首をかしげられてクラクラ。思考能力3割減。
 えっと『マチダ』? 
 あぁ、こいつマチダっていうの? 
 …じゃなくて。
 主文は『こっち系』?
 ……じゃなくて『下』? 
 『下』って、もももし…か……。

 ひいいいいい!

 おれのスカスカの知識ですら身体にぶつぶつと鳥肌を立てさせる威力の女子会BLトーク。
 頭は理解できない現実を受け入れても、身体はそうはいかないらしい。
「あれー? ボタン押してなーい。なぁにぃ、もしかしてエレチューの最中でしたあ?」

 えれちゅー?

 ボキャブラリーが貧困なわりに、おれの脳は働き者だ。
 エレベーター+ちゅう。
 瞬時に変換をおえて全身に鳥肌増殖指令。
「いーなー。でも、あたし1階にもどりたいんで下で。続きはあたしが降りてからしてね先輩。あ、先輩ですよね?」
 定員11名の狭い空間に、ふわっと謎の甘い香りを漂わせた娘が、昇降ボタンに、これまたおれのツボ、魔女のように伸ばしていない短くてかわいい爪を薄いピンク色に塗った指を乗せて、おれを見上げてきた。
 はい。先輩です。
 いや、いい響きだな『先輩』。
 帰宅部のおれには実に新鮮な響き。
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