王女ちゃんの執事1『で・eye』加藤さん、きれいです。
 こくこくうなずくおれにしがみついているマチダが、エレベーターが動き出すとやっと、スローモーションのように彼女のほうに顔を向けた。
「五十嵐……だった、の?」
「やーだな。恥ずかしくて振り向けなかった? そうだよ、あたしー。よかったねえ。目撃者が、言いふらす友だちもいないやつでさぁ」
 マチダは返事をしない。
 そしておれは、相変わらずマチダにしがみつかれてるわけで。
「おい」
 おれが、さっさと弁解せんかマチダ! と揺すった腕はマチダに無視されて。
「だーいじょうぶですよー、先輩」
 答えたのは、そのキラキラ眼に意外やBLモードも実装されているらしい娘イガラシ。
 1階に止まったエレベーターのドアが完全に開くのも持たず、左右に分かれるドアの間をすりぬけた彼女は笑っていた。
 人生ほぼ18年生きてきて、おれが初めて見た、胸をつくはかなさで。
「秘密なんか、ひとつもふたつもいっしょだもん。あたしが持っていってあげるよー」
 ど…こ、に?
 声にするひまもなかったおれの質問に、ぼそっと答えたのはマチダだ。
「あいつ……、いつ死ぬんだろう」
「…………」
「…………」
「…………」
 マチダの沈黙の理由はわからない。
 でも、おれが言葉を失ったのは、頭のなかいっぱいに、たったいま聞いた単語が増殖していたからだ。

 死ぬ? 
 死ぬって誰が? 
 死ぬ? 
 死ぬって…いったい……。

「えと、あの――…」
 マチダがなにか言っている。
 マチダ? 
 マチダって誰だ。
 おれは、そんなやつ知らないしっ。

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