王女ちゃんの執事1『で・eye』加藤さん、きれいです。

4『あばよ』

4『あばよ』

 15時間ぶんなぐりたいと思いつめた相手が目の前にいるのに、おれは根性なしだ。
 駅前広場の端の植木に隠れるようにしゃがみこんで。
 たぶんおれを持っていた町田に、飛びかかって膝蹴りをかますくらい犯罪にもならないだろうに。

 ――おまえとは関わらない――

 町田の姿が目に入った瞬間に身体が決めた今後の方針。
 町田がうつむいていたのをいいことに、学校に向かう制服の群にまぎれて逃走。


「さっき、五十嵐が行きました」
 すっと横に並んだ人の気配に、捨てたはずの暴力衝動が再燃。
 吸いこんだ息で身体が固まるような怒りで胸倉をつかんだおれに、町田が見せた顔。
「どうぞ」
 静かに目を閉じて。アゴを上げて。
 なぐってくださいってか?
 おれの気持ちなんか、充分ご存知だってか。

 ――むかつく――

 乱暴に突き放して歩き出す。
 通学路で見せ物になんか、誰がなるか、ばかやろう。

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