王女ちゃんの執事1『で・eye』加藤さん、きれいです。
 エレベーターに乗る前は聞こえていた音が、2階に降り立ったときにはもう聞こえなかった。
 ドア閉めた? or教室に帰った?
 出鼻をくじかれたけれど気分はもうお説教モード。
 ぐわし! ぐわし! と重たい二重ドアを引っ張り開けて音楽室に突撃。
 奥の防音ドアを引いたとたん、耳というより腹に響いた音に「うっ」。
 すがめた目が見たのは、部屋の奥まった場所でドラムを叩く、白い長袖Tシャツの男ひとり。

 おれがドアを開けたのにも気づかないでスティックを振り続けるのは、たぶんそいつが目をつぶっているからだ。
 目をつぶっているのに、空中に浮かんだシンバルにまできちんとスティックが当たるってどういうの?
 し…かし……身体が勝手に揺れる。なんだ、この音。

 背後でドアが閉まるとむっと蒸し暑い部屋で、なにかに憑りつかれたように、メシを食ったばかりの胃をゆさぶる高速ビートを叩きだしている男は、部屋中に充満したその音とは、めちゃくちゃ違和感のある小さな顔を汗だくにして、前髪を振りたてていた。

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