王女ちゃんの執事1『で・eye』加藤さん、きれいです。
 そんななりで目をつぶったま、頭のはるか上にセットされたシンバルを叩かれると、まるで祈りの儀式かなにかのようだ。

 男が振り上げてシンバルを打った手の甲でうるさげに額の汗をぬぐう。
 いっそ青く見えるほど白い手と、白い額。

 ふぅぅぅぅぅ。

 まず目が見たものを忠実に追いかけながら、おれは耳に残る残響を振り落とすためにため息をついた。
 爆音に揺さぶられていた身体が知らないうちに緊張していたらしい。
 吐いた息はけっこうな長さになって。
 それでこちらの気配に気づいたのか、男がパチッと目をあけた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 男の顔なんか形容できるほど、おれのボキャブラリーは豊富じゃない。

 だからおれの脳は、そこに見えている濡れて額に貼りつく長い黒髪やらデカイ目やら、小さい顔に似合いの細い鼻や真っ赤な唇なんていうものへの感想をひっくるめて、ひと言。

 敵。

 …で目の前の男を片づけたというのに。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 なんだっておれ達は、いつまでも見つめあったりしちゃっているわけだ?
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 まぬけな沈黙を破ったのは、ほめてやる! おれの口。
「あのさ、外に…音、もれてた、けど?」
「…………」
「…………」
「…………」
 ぽかっと小さく唇を開いたまま固まっていた男の顔が、みるみる赤くなる。
 男のくせに色白で細っこくて。
 白の長袖Tシャツの上から突きだしている、これも細っちい首筋にチラッと見える銀の鎖。
 おれの1番キライなタイプのしゃれおつクン。
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