王女ちゃんの執事1『で・eye』加藤さん、きれいです。
「使用許可は? ちゃんともらってんだろうな。こんな昼休みに」
「…………」
 無言でこくこくうなずきながら立ち上がりかけた男のほうから、カツンと小さな音がして。
「あ」
 小さく叫んでうつむいた男の足下にスティックが落ちた。
 ころころと床を転がってくるそれを見て、条件反射で拾いにいったおれは、中腰の不安定な姿勢でなにかと激突。
 それが、ドラムセットの後ろから走り出てきた男だとわかったときには、ペたりと床に座りこんだまま、膝立ちの彼と、また見つめあっていた。
「ほれ」
「…………」
 スティックを渡してやっても礼ひとつ返さないことよりも、見下ろされている立場が腹立たしい。
「なんだよ」
「ご、めんなさいっっ」
 握りしめたスティックを胸に押しつけるようにして頭を下げた男の前で、ふと気づく。
 こいつはなにを謝っているんでしょーか?

1。おれに落とし物を拾わせたこと。
2。おれに尻もちをつかせたこと。
3。まさか、おれにみとれた……こと?

 げ――――っっ!

 硬直したおれは、目の前の男がおずおずと目線を上げて、またしてもこちらを見ているのに気づき、指先からピキピキと絶対0度凍結。
 でも喉元まで凍りついたとき、ひくりと眉が動いたのは、やつの目の焦点がズレているのに気づいたからだ。

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