☆表の顔と裏の声★
少しずつ声が出るようになってくると、もっと
話したいという気持ちに変わり、なるべくメモに頼らない生活を心がけた。

けれど発音の悪さが恥ずかしくて口ごもる事も。
裕也のように私の言葉を全て聞き取ってくれる人はそういない…

仕事中、来館者から訪ねられた時は簡単な言葉とジェスチャーでどうにか対応していた。

「はい」「こちらです」「いいえ」「どうぞ」

これでだいたい伝わる。


「ありがとね」

「…ぃいえ」

この日も私は案内をし終えてホッとしていると、
棚の陰からひょこっと現れたのは、

「ぁ!ゅう…ゃくん」

「凄いな、七海。」

今日は優しく褒めてくれる裕也に、私は素直に
嬉しくて笑顔になった。

「待ってていいかい?」

「はい」

すると裕也も嬉しそうに笑顔を見せた。



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