☆表の顔と裏の声★
こんな事になったら、きっとお父さんの事を思い出し、恐怖に怯えるだろうと思っていたけれど、
その予想は全く違っていた。

私に触れたとても温かくて柔らかいその唇は、
動揺していた心をも解きほぐし、体の力も無くなっていく……そんな感覚に陥っていると、唇が離れていった瞬間私はふわっと倒れそうになり、裕也は咄嗟に抱きしめ支えてくれた。

「ごめん…怖かったか?」

「…ぅぅん、」

すると裕也は私を抱き上げソファまで連れていってくれると、すぐ横に座り私の頭に手を乗せて
首を傾げながらこちらをじーっと見てくる。

「…な、なぁに?」

「良かった。やっぱり、俺は大丈夫なんだな」

「ん?」

「初めからそうだっただろ。男が怖かったのに、
俺に抱き付いてきて。」

「どぅし、て…だろぅ」

「あの時から、俺は七海の事見抜いてたから…
俺と同じだって。平気な顔してるけど本当は余裕なんてなくて、カウンセリングなんてしてるけど
自分は親を恨んでて」

無意識に、裕也の手をそっと握っていた。

「でも七海には乗り越えてほしくて、だから俺は七海に会いに行ったんだ」

「あぃに?……としょ、かん…?」

「そうだよ。どうにかカウンセリング出来ないかって思って。自分が好きだって事隠してたのに、
七海が俺の事好きすぎるからもう無理だったよ」

そんな事全然気づかなかった。
私は裕也にからかわれて、意地悪されてるとばかり思っていた。

恥ずかしいけど今はしっかり見れている。
裕也の目を、微笑みながら。

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