☆表の顔と裏の声★
「またあとでね」

そう言うと裕也は歩いて行ってしまった。

(またあとで?)

裕也の後ろ姿を見ながら不思議に思っていると
診察室に呼ばれた。

「七海ちゃん、この間不安になってしまった理由は自分で分かる?書けるかな?」

主治医の質問に今日は答えられるはず。

【思い出したの。お】

私は、お父さんという文字を未だ書けずにいた。

「思い出したのは、お父さんの事?」

手を止めたまま、小さく頷いた。

「何かの言葉を聞いて思い出したのかな?」

【れんのお母さんの話を聞いてて、】

それ以上は、やっぱり書けなかった。

「そう。怖かったのね。
けどあの時裕也君は大丈夫だったみたいで、
先生驚いちゃった。少しずつ平気な人が増えていくと七海ちゃんも不安が無くなっていくからね」

私は恥ずかしさと安心感で、少しだけ笑顔になれた。

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