吐息



幼い頃、家に取り立て屋がよく来てた。



ドアを激しく叩く音。



突然やって来ては、ドアの向こうにいる私たちへ罵声を浴びせる。



「いるのわかってんだよ! 出てこいっ。……おいっ! いい加減に金返せ。海に沈めるぞっ」



ゲラゲラと品のない笑い声。



恐ろしくて、部屋の端っこで私はいつも震えていた。



「絶対に、声を出しちゃだめよ。いい?」



そう言って震える私を抱きしめる母の肩も、震えていた。







ーー強くなりたい、と思った。



はやく大人になって、強くなったら、母を助けてあげたいと思った。







でも、母は死んでしまった。


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