吐息
なんとか起き上がる。
そして、ゆっくりと顔を上げた。
目の前の光景に私は目を見開く。
……うそ。
なんで……正気を失ってたんじゃ……。
そこに立っていたのは……飛鳥さんだった。
……足かせは?
彼の足を見る。
足首のところは、無理やり足かせを引きちぎったのか、血が流れていた。
どれほどの力で……。
いや、それよりも飛鳥さんは薬を飲まされていた。
立ち上がるのもやっとのはずじゃ……。
それでも、今目の前にいるのは、飛鳥さんで。
虚な瞳ではない。
精気の宿った目で、社長を睨みつけていた。
だが、真咲さんは仰向けで倒れたまま動かない。
よほど激しく蹴り上げられたらしい。
凛とした表情の飛鳥さんは、状況を一瞬で飲み込み、嘆くようにつぶやく。
「……あぁ……よくもまぁ……ここまで。許せない。……許せない。ーーねぇアリア」
ギロリと睨む怒りの視線を浴びたアリアさんが肩を震わせる。
「なっ、なによ。わ、悪いのはそっちじゃないっ! ひどいわっ! こんなに傷ついたのに! ずっと信じてたのよっ! あたし、あなたを愛してたのにっ! いつかいっしょになりたかった! 愛してた! 愛してたの! ねぇ、愛をちょうだい! 欲しい欲しい欲しい!! ねぇっ」
「俺は、愛してない」
「へ……?」
「アリア。俺は君を愛してないよ。ずっと君は、理解しようとしてなかったけど」
そしてアリアさんに言った。
ーーオママゴトはもう終わりだ、と。