王女ちゃんの執事2『ひ・eye』焼きそばパン、リターンズ。
 背後から聞こえるかすかな異音。
 シュッ シュッ シュッ
 これは授業中なら馴染みの音だ。
 シュッ シュッ シュッ
「…………」
 木村だ。
 スマホをスワイプしている。
 動画のコメでも読んでんのか? 余裕じゃん。
 …と思えない根拠が焼きそばパンというあたり、他人を思いやるだの、心配するだのいう心持ちとは著しくかけ離れている気もするが。
 オカルト少年・町田のダメ色ホイホイに木村がかかった確率は80%に上昇。


 3時間目の日本史で確率は90%に跳ね上がった。
 シュッ シュッ シュッ
 途切れることのないスワイプ音。
 カンニング。


「オールメン、シーユートゥモロー」
 ガイコツマンが教室の前ドアから出ていっても、木村が席を立たない。
 時間かせぎをしたかったおれには都合が良かったとはいえ、おれでさえ感じる悲壮感を町田に確認させる意味はない気がしていた。
 見えないものまでが見えると言うやつに、おれにすら見えるものまで見せる必要はない。
「よう。調子どーよ、木村」
 ゆっくりと振り向いて声をかけたおれの前で、ぴくっと全身を震わせた木村が、椅子を蹴たてて立ち上がる。
「あの手がきかねえ科目は……、どーすんだ」
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