王女ちゃんの執事2『ひ・eye』焼きそばパン、リターンズ。
 男の泣き顔なんて、誰にも見せられない。
 そのまま前ドアまでインターセプト。
「これ! アリカトウ。待ちなさい。本当に具合が悪そうじゃないですか。あなたひとりで大丈夫なんですか? 保健委員はどなたです」
「先生、ババ引くのはおれだけでいいよ。テスト続けて」
 廊下から叫んだおれに、なぜか教室から「うおー」という野太い声と拍手。
 ばかなやつら。
 おれはヒーローじゃない。
 ヒーローが友だちをこんな目にあわせるか?
 木村はおれに引きずられて歩きながら、ガキみたいにしゃくりあげている。


 証拠は必要だ。
 おれは木村を医務室に引きずりこんだ。
 高校の養護教諭なんて、生徒のグチを聞いてナンボの仕事。
 帰宅部のおれは部活でケガをすることもないし、医務室になんて来たのは初めてだけど、白衣の胸に米沢というネームプレートをつけた、うちの虎ほど小柄なオバチャン先生は初対面のおれにも異様にフランクだった。
「つきそいって、きみさ、そもそもテスト、投げてたんだろ」
 失礼な。
「6割埋まってなきゃ、たとえ友だちが死にかけてても放置したに決まってるでしょ」
「6割とはまた志が低いこと」
「おれ、受験科目じゃねえし」
「あらま。けっこうシビアだね」
 がっはっはって。
 笑ってないで少しは木村の心配をしてやれよ。
 指先で目ん玉ひんむいて「充血してるうえに貧血だ。寝不足かい?」で終了って。
 当たってそうだからいいけどさ。
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