王女ちゃんの執事2『ひ・eye』焼きそばパン、リターンズ。
 幸いというか、おれの席のほうがドアに近いので、追いかけて逃がす屈辱感は味あわなくてすむ待ちぶせ体勢。
「木村!」
(わり)ィ。話す気分じゃねえ」
 それはこっちのセリフだ。
「だったら、そんなに堂々と、落ちた顔、見せるんじゃねえ!」
「…………」木村は立ち止まって、言うに言えない複雑にゆがんだ顔でおれを見た。
「…ってか、おまえ、いつからそんな、おせっかいちゃんになった?」
 ――――うっ。
 息の根を止められたおれは、無言で廊下に出ていく木村の背中を見送った。

 そのままよろけるように椅子に座りこんだおれが、なにに腹を立てるべきなのかもわからずにいるというのに。
「先輩!? あ、先輩! 町田が大変! 先輩も来て、早くっ」
 叫びながら教室のなかまで入ってきた五十嵐に腕を取られて。
「わっ」
 ガタガタと騒々しく椅子を鳴らしながら、おっとっと歩行。
 体勢も整わないまま引きずられて肩がドアに激突。
「ってえ――っ!」
 あげくは各教室から出てきたやつらでごったがえす廊下に、頭からスライディングするパフォーマンス。
「て…め、いがら」
 そこで声がつまったのは、(こぶし)に固めた手がつかんだ感触への違和感。
 空気をつかむはずのおれの手は、あきらかに違うなにかをつかんでいた。
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