王女ちゃんの執事2『ひ・eye』焼きそばパン、リターンズ。
「浩ちゃん……、ひどい、よ」
 先陣をきったのは恋する娘。
「大丈夫だって――、なんでもないって――、レス…くれた、のに」
「…………」「…………」
 応えられないおれと木村をよそに動いたのは、今回は巻きこまれただけの町田。
 足立の涙でびしょびしょの手に自分のハンカチをにぎらせる。
「足立先輩……。あの、木村先輩はもう…大丈夫です。加藤さんが、大丈夫にしてくれました」
 いや、おれはなにもしてねえし。
「おれが加藤に助けられたってかよっ!」
 吐き捨てた木村が、ずるりと地面に腰を落とす。
 町田は臨戦態勢を解いた。
「加藤さんは助けてくれません。見ていてくれるだけですよ、木村先輩」
「…………」「…………」「…………」
 3人3様の沈黙を受けて町田がほほえんだ。
 熱に溶けるアイスクリームのような、はかなく切なく甘い…笑み。
「自分は自分で助けてあげないと……」
 季節にそぐわない白い長袖シャツの袖をまくって。
 すっと差し出された、まがまがしい傷を持つ町田の左手首。
 町田の今の穏やかな顔と、彼の過去の狂気の一瞬を、おれたちはそこに見た。
 がくがくとあごを震わせる木村が囚われているのは恐怖だろう。
 今、生きているからこその死への恐怖。

 町田がそっと手首をシャツの下に隠すと、それが合図になったかのように木村が泣き出した。
 ガキのように声を上げて。
 あふれる涙も鼻水もそのままに。
「ふ…、う……」
 それを見て足立もまたしゃくりあげる。
 おれはただ突っ立っていた。
 横に立った町田の頭が肩に乗っても。
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