王女ちゃんの執事2『ひ・eye』焼きそばパン、リターンズ。
「結局、数字だけ兄貴に勝てば、満足できたんか、おまえ」
「わかんね」
 コンクリートブロックの壁に寄せられた、見知らぬ他人の車のバンパーにもたれて作った親密な空間。
「なあ、木村、おまえ、やりたいことねえの?」
「――スペアが、そんなこと、考えられっか…よ」
 ずっと母親の視線をほしがっていた、寂しい子ども。
 自分を病弱な兄に万が一のことがあったときのための代替品扱いして。
 おれには木村はおまえひとりだぞ?
 足立にだって。
「卒業まで、まだ半年あるぜ。いい機会じゃん。今ならまだ兄貴より優秀だって吠えるか、兄貴とは違うって叫ぶか――選べる」
「――どっちにしろ、わめくのかよ」
 ふっ…と息をつく笑いは自嘲。
 もう自分を笑うのはやめろや、木村。
「足立は、あたしならとっくに怒鳴ってるって言ってたぞ」
「洋子が?」
 うわ。
 出たよ、幼なじみ。
「おれはおまえなんかどうなったっていいけどな。足立は泣いてたろ。あれは…どうにかしてやれや」
「…………」
 自分じゃ選べない母親より、自分で選ぶ女のほうが大事な男がいたってかまわないだろ。
 おれは鬼ババァの報復が怖いから、当面はへーこらしておくが。
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