王女ちゃんの執事2『ひ・eye』焼きそばパン、リターンズ。
 駅へと歩き始めて、歩みののろい町田にふと気づく。
 マジでおごってやろうかっていうのに、どうしたよ。
「あの、加藤さん」
 おう。
「おれ、その、コンビニとか行かないので――。ダンシとかカレシとか、なんの略です? パンの種類ですか? 女子語かな? 加藤さん知っ――」
 そこで町田が黙ったのは、おれがカフェオレを噴かないように、掌でがばりと口元を覆ったからだろう。
「加藤さんっ! どうしました?」
「ぶっ……はははははははっっ」
 飲みこんだあとはもう、身体が半分に折れるほどのばか笑い。


 深呼吸で笑いを収めたおれが、なんの説明も解説もせず、黙って高架下の通路へと進むのに町田も黙ってついてくる。
 知りたくもないことを知ってしまう男は、ひとに聞くことをしないらしい。
 なぜ。
 どうして。
 わからないから聞く。
 わかりたいから聞く。
 話す。
 話し合う。
 おまえには必要ないらしいそんなことを、強要するのは気が引けるんだがなぁ。
「なあ、町田」
「はい」
 おまえはどう思う?
「誰かに認められたいから自分を傷つけるやつって――、そんなに寂しいんかな」
「…………」
 町田の返事はない。
 そりゃあそうだ。
 ちと重すぎた。
 口にしたおれすらがもう、しんみり、どんより気分だし。
「すま…」「五十嵐がそうでしたけど。木村さんも…ですか?」
「…………」
「…………」
 おれが柄にもなくヒトってやつについて真面目に考えて落ちたこと。
 隠せないなら言葉にしちまえ、と思ったこと。
 ひとりでは抱えきれない思いをおまえに押しつけたこと。
 すまない、と謝ってはいること。
 みんなおまえにはわかるんだよな?
 見えるんだよな?
< 36 / 37 >

この作品をシェア

pagetop