Fw: R-17〜もう一度、人生をやり直したいですか?〜
──今の“彼”は“未来の彼”とは逆で、短髪をワックスで軽く無造作に遊ばせていて。
眠そうに口元を押さえて呑気に欠伸をしているのが見えた。
……結婚してからこんなに短髪の彼を見た事がないせいか、なんだか新鮮でつい目が離せなくなる。
すると、ポン──と赤星が背後から私の頭の上に顎を軽く乗せてきたかと思えば、
「梨沙? お前アイツと知り合いなの?」
と、不思議そうに聞いてくる。
ドキリ───、と一際大きく心臓が跳ねた。
───……知っている。
知ってはいるけれど、でも、今は───。
「う、ううん。話した事も……ない人」
……──そう。
私、と、
彼。
こと、“浅倉智政”は、
──15年前である“今”は……赤の他人なのだ。
同じ学校ではあるけれど、クラスが同じになった事もなければ、話した事も、ましてやお互い名前すらも知らなかった。
だから智政と仕事を通じて知り合うまでは、こうやって電車の中ですれ違っていたのだという事さえも知らなくて。
───いや、実際すれ違ってはいても、お互い眼中になかった当時は認識すらしていなかったのだと思う。
だって───。
「智君っ、おはよ!」
停車した駅からまた更に学生が乗り込んでくる。
その中に緩いパーマをふわふわとさせながら、智政に近づく小柄で可愛い女の子。
───西野沙耶香。
チラリと昨夜見た、メールの送信者名が脳裏を過ぎる。
……お互い眼中に無かったのは当然だ。
だって───15年前の私達は、それぞれに大切な人がいたのだから。