逆行したので運命を変えようとしたら、全ておばあさまの掌の上でした
9
「色々お話しする前に、私の故郷のお話しをさせて頂くわ。それは、これから話す全ての事の原因でもあるのだから」
ルナティアの故郷は極東にある小さな島国で、漁業、農業ともに栄えている豊かな国だ。
その国には不思議な力を持った子供が時折生まれ、未来を見通す力があると言われており、その力を使い国が豊に栄えたのだと言われていた。
「その不思議な力を使える人間は、黒い髪と青い目を持った者のみ。身近で言うならば、私やクロエの様な人間ね」
だが、黒髪青い目でも全ての人間がそうなわけではなく、主に王族に生まれる事が多いのだという。
そう言うルナティアもシェルーラ国の第一王女だった。
「不思議な力自体は存在するのだけれど、実は千里眼ではないの。真実は公表できないから千里眼って事にしているわ。まぁ、そんな曖昧な能力なんて他国の人間は半信半疑でしょうね。貴方もそう思うでしょ?」
多分、全くそう言う物に関わらなければ信じはしないだろう。
だが、昨年の父を見ていれば・・・いや、これまでの父親の行動を思い返せば、そう言う力は存在するのかもしれないと思ってしまう。
「・・・・私は、どちらかと言えば、肯定的です」
「あら、どうして?」
「昨年の・・・リージェ国の事件、ルナティア様が父に宣託を授けたんですよね?」
昨年、祭りから帰って来た父の顔はこれまでになく厳しい表情でリージェ国や魔薬の件を直ぐに調べるよう指示をだした。
フルール国から帰って、即だ。
しかも本当は後数日は滞在する予定だったのに、帰国を早めてまで行動に移したということは、その緊急性を大いに知らしめていた。
最近、魔薬がらみの犯罪の話も多く上がってきていたので、近々、調査に乗り出す予定だった事もありすぐさま対応に当たった。
それはあくまでも内密に相手に知られる事無く、また、何処に内通者が居るかわからないため信頼できる者だけで動き、当然、イサークとその側近も駆り出されていた。
蓋を開けてみればその案件は、今は亡き曾祖母の離宮中心に起きており、その事実に驚きを隠せなかった事を今も覚えている。
リージェ国の間者が曾祖母の屋敷に使用人として入り込み、ミロの花の栽培加工、それに伴い闇の売人を斡旋しうまい汁を吸っていた事も、意外とあっさり分かったのだ。
そして、そのルートを一網打尽にすると言う最も神経を使う掃討作戦は、本来であれば何か月もの時間をかけてあぶり出していくのだろうが、父はまるで全てを分かっているかの様にピンポイントでアジトに攻め込み一気に潰してしまった。
父は何も言わないが、側近たちは皆気付いている。きっとまた『賢妃』から、何らかの宣託を頂いたのだと。
思っていた以上にあっさりとカタがついてしまったリージェ国の事は、正にルナティアの宣託のおかげなのだと身をもって感じた。だから、不思議な力を否定する事は出来ない。
「あら、エドリード様はバラしちゃったの?」
「いいえ。ですが、父の側近達は気付いているようです」
フルール国から帰ってくるたびに、先を見越しての政策を打ち出すのだから、すぐにばれるというものだ。
「仕方のない方ね。秘密を守るというから協力して差し上げたのに、ダダ漏れね」
「あ、いや、信頼のおける側近にしか知られていませんし、その者達も口は堅いので」
「ふふふ、いいのよ。分かっているから」
気分を害した様子もなく笑うルナティアに、イサークはほっと胸を撫で下ろした。
「それに、私は生き延びるために皇帝陛下を利用しているのだから、お互いさまね」
「・・・・それは、どういう意味ですか?」
「そんな警戒したような顔しなくても大丈夫よ。エドリード様も喜んで利用されてくれてるし」
「父は知っているのですか?」
「知ってるも何も、帝国の存続もかかっている事だから、生贄の様にその身を差し出してくれているのよ」
と、まるで鈴を転がしたように可愛らしく声を上げて笑う。
意味が分からない・・・・
父とルナティア様との間に何らかの協力関係を築いているのは今の話でわかった。
帝国の存続?帝国は他国と比べ簡単に落ちるような国ではない。なのに・・・・
困惑がありありと表情に出ているイサークにルナティアは、
「フェルノア帝国はね、外からではなく中からやられちゃうのよ。だから昨年、大掃除したでしょ?」
「リージェ国の件ですよね?確かに魔薬の事は見過ごせない事ですが、その様な事で帝国が落ちることはないのでは」
「甘いわね。皇宮内部にそれが入ってからでは遅いのよ。今回も際どい所でカタがついたからそう言っていられるだけ。前は農作物の不作による食料危機が切っ掛けで隙を見せてしまったらしいから、まずはそこからだったのだけどね」
彼女の言葉に対する違和感を感じ、無意識に聞き返す。
「・・・・前?」
彼女の言う「前」とは数年前とかではないと、何となくわかる。だが何に対しての「前」なのかがわからない。
「私の言う前とはね、今とは違う前に生きていた事を意味するのよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「わからないわよね。イサーク様は逆行という言葉をご存じ?」
「・・・・言葉通りに取るならば・・・遡るということでしょうか?」
「正解。私はね、二回死んでいてね、今の生が三回目なの。死んで目が覚めると三才の自分に戻っているのよ。信じられないでしょ?」
まるで世間話でもするかのように、軽い感じでとんでもない事を告白する彼女。
それに対し「・・・・信じられ、ません・・・」と返すのが精一杯のイサークだった。
ルナティアの故郷は極東にある小さな島国で、漁業、農業ともに栄えている豊かな国だ。
その国には不思議な力を持った子供が時折生まれ、未来を見通す力があると言われており、その力を使い国が豊に栄えたのだと言われていた。
「その不思議な力を使える人間は、黒い髪と青い目を持った者のみ。身近で言うならば、私やクロエの様な人間ね」
だが、黒髪青い目でも全ての人間がそうなわけではなく、主に王族に生まれる事が多いのだという。
そう言うルナティアもシェルーラ国の第一王女だった。
「不思議な力自体は存在するのだけれど、実は千里眼ではないの。真実は公表できないから千里眼って事にしているわ。まぁ、そんな曖昧な能力なんて他国の人間は半信半疑でしょうね。貴方もそう思うでしょ?」
多分、全くそう言う物に関わらなければ信じはしないだろう。
だが、昨年の父を見ていれば・・・いや、これまでの父親の行動を思い返せば、そう言う力は存在するのかもしれないと思ってしまう。
「・・・・私は、どちらかと言えば、肯定的です」
「あら、どうして?」
「昨年の・・・リージェ国の事件、ルナティア様が父に宣託を授けたんですよね?」
昨年、祭りから帰って来た父の顔はこれまでになく厳しい表情でリージェ国や魔薬の件を直ぐに調べるよう指示をだした。
フルール国から帰って、即だ。
しかも本当は後数日は滞在する予定だったのに、帰国を早めてまで行動に移したということは、その緊急性を大いに知らしめていた。
最近、魔薬がらみの犯罪の話も多く上がってきていたので、近々、調査に乗り出す予定だった事もありすぐさま対応に当たった。
それはあくまでも内密に相手に知られる事無く、また、何処に内通者が居るかわからないため信頼できる者だけで動き、当然、イサークとその側近も駆り出されていた。
蓋を開けてみればその案件は、今は亡き曾祖母の離宮中心に起きており、その事実に驚きを隠せなかった事を今も覚えている。
リージェ国の間者が曾祖母の屋敷に使用人として入り込み、ミロの花の栽培加工、それに伴い闇の売人を斡旋しうまい汁を吸っていた事も、意外とあっさり分かったのだ。
そして、そのルートを一網打尽にすると言う最も神経を使う掃討作戦は、本来であれば何か月もの時間をかけてあぶり出していくのだろうが、父はまるで全てを分かっているかの様にピンポイントでアジトに攻め込み一気に潰してしまった。
父は何も言わないが、側近たちは皆気付いている。きっとまた『賢妃』から、何らかの宣託を頂いたのだと。
思っていた以上にあっさりとカタがついてしまったリージェ国の事は、正にルナティアの宣託のおかげなのだと身をもって感じた。だから、不思議な力を否定する事は出来ない。
「あら、エドリード様はバラしちゃったの?」
「いいえ。ですが、父の側近達は気付いているようです」
フルール国から帰ってくるたびに、先を見越しての政策を打ち出すのだから、すぐにばれるというものだ。
「仕方のない方ね。秘密を守るというから協力して差し上げたのに、ダダ漏れね」
「あ、いや、信頼のおける側近にしか知られていませんし、その者達も口は堅いので」
「ふふふ、いいのよ。分かっているから」
気分を害した様子もなく笑うルナティアに、イサークはほっと胸を撫で下ろした。
「それに、私は生き延びるために皇帝陛下を利用しているのだから、お互いさまね」
「・・・・それは、どういう意味ですか?」
「そんな警戒したような顔しなくても大丈夫よ。エドリード様も喜んで利用されてくれてるし」
「父は知っているのですか?」
「知ってるも何も、帝国の存続もかかっている事だから、生贄の様にその身を差し出してくれているのよ」
と、まるで鈴を転がしたように可愛らしく声を上げて笑う。
意味が分からない・・・・
父とルナティア様との間に何らかの協力関係を築いているのは今の話でわかった。
帝国の存続?帝国は他国と比べ簡単に落ちるような国ではない。なのに・・・・
困惑がありありと表情に出ているイサークにルナティアは、
「フェルノア帝国はね、外からではなく中からやられちゃうのよ。だから昨年、大掃除したでしょ?」
「リージェ国の件ですよね?確かに魔薬の事は見過ごせない事ですが、その様な事で帝国が落ちることはないのでは」
「甘いわね。皇宮内部にそれが入ってからでは遅いのよ。今回も際どい所でカタがついたからそう言っていられるだけ。前は農作物の不作による食料危機が切っ掛けで隙を見せてしまったらしいから、まずはそこからだったのだけどね」
彼女の言葉に対する違和感を感じ、無意識に聞き返す。
「・・・・前?」
彼女の言う「前」とは数年前とかではないと、何となくわかる。だが何に対しての「前」なのかがわからない。
「私の言う前とはね、今とは違う前に生きていた事を意味するのよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「わからないわよね。イサーク様は逆行という言葉をご存じ?」
「・・・・言葉通りに取るならば・・・遡るということでしょうか?」
「正解。私はね、二回死んでいてね、今の生が三回目なの。死んで目が覚めると三才の自分に戻っているのよ。信じられないでしょ?」
まるで世間話でもするかのように、軽い感じでとんでもない事を告白する彼女。
それに対し「・・・・信じられ、ません・・・」と返すのが精一杯のイサークだった。