ベランダでキスする関係の名前は?
ゲームを始めて30分ほど。
「……ねぇ、大ちゃん。次、私が勝ったらお願いを聞いて欲しい。」
「いつも聞いてる気がするけど? 叶えられる範囲ならいいよ。」
「わーい」
ドラマとか漫画でよくある賭け事を持ち出した。
そして得意なアクションゲームを選び、私は大ちゃんと格闘する。
「得意なゲームで賭けるのズルくないか?」
苦戦しながらも笑い混じりに大ちゃんが言う。
「いいじゃん。それだけ聞いて欲しいお願い事なんです!」
戦略勝ち。頭脳は使うべきところで使うのが私のポリシー。
「やった!勝った!」
流れるように勝利を手にし、私は隣にいる大ちゃんの顔を満足げに覗き込んだ。
「ほんと、美鈴って可愛い顔してズル賢い。」
「…っ……」
クスクスと笑いながら私の頭を撫でる。
『可愛い』
その一言がパワーワードすぎて、私の心をいとも簡単に撃ち抜いた。頬は紅潮し、伏し目がちに目を泳がせる。
「で、お願い事って?」
「……」
勢いで始めた賭け事。
あぁ、なんか、もうどうでもいいかも。
「………キスしたい…」
驚いた表情で顔を赤らめる愛しい人に、否応なしに口付けをした。
「待っ……美鈴…」
大ちゃんはゲーム機を床に置いて私から離れる。頭が真っ白といった状態で、挙動不審になっていた。
それもまた可愛いと思うから、私はかなり大ちゃんに溺れている。
「もう一回…」
手を伸ばして、頬に触れる。
拒絶されないのをいいことに、もう一度唇を重ね合わせた。
「っ…」
最初に上唇を、次に下唇を舐め上げて視線を交わらせた。
「……美鈴」
名前を呼ばれて、胸が高鳴る。
もっと呼んでほしい。
「……っ…好き。」
気づいて。
幼馴染としてなんかじゃない、特別な感情に気づいて欲しい。
「…………大ちゃんが好き…」
正真正銘の告白。
届くかな。届いて欲しいな。
「……好きなの…」
幼馴染よりも、もっと深く繋がりたい。
薄く開いた唇に再びキスをした。
「ごめん。俺は美鈴をそんな風に見たことない。」
積み上げてきたものがたった一瞬で崩れることもある。
どんなに嘆いて、駄々をこねたって受け入れられないものが存在する。
キスの合間に放たれた大ちゃんの言葉は酷(むご)く、私の胸を引き裂くには充分な言葉だった。
「………俺はお前の兄貴になって、一生守り抜くって誓った。間違っていることは正すし、お前が道を踏み外しそうになったら手を引いて正しい道へと導く…。それが俺の役目…。」
「笑わせないで。兄になって欲しいなんて頼んでないし…ましてや私と大ちゃんは血の繋がりなんてない…。他人だよ…。」
「…………そうだな…」
ボロボロだ。
顔もグシャグシャだし、止めどなく涙は溢れる。
泣けば済む話でもないのに。
こんなにも近くにいるのに、遠い。
「……どんなに同じ時間を共有しても…私と大ちゃんは兄妹になれない。」
ずっと好きだった。大好きだった。
想いの強さ、深さも。
想いを募らせた時間の長さも。
意味がないものなんだね。
「………ごめん。」
大ちゃんは一言、そう言った。
その謝罪の言葉が脳裏にこびりついて離れない。
苦しい、なんてもんじゃない。
「……っ…」
高校生になった年。
私は失恋した。