ベランダでキスする関係の名前は?
宣戦布告
美鈴side
「大ちゃんに冷たい態度とっぢゃっだぁー!!!うわーー!!!」
「姉ちゃんうるさい。」
リビングのテーブルに突っ伏して項垂れていると春太に叱られた。けれど、叱られたぐらいで私の乱心は治るわけではなく…。
「うわぁぁあぁああぁ…!」
「………」
不服そうな顔で私の前へと移動してくる春太。目前の椅子に座り、頬杖をつきながら私に話しかけてきた。
「さっきご飯食べに行ったら大ちゃん、俺が来るまで待っててくれてさ。とにかく元気なかったんだよね。」
「………」
「笑いはするけど空元気みたいな。訊いたら姉ちゃん、晩御飯いらないって拒否したんだって?」
「………大ちゃん、なんか言ってた?」
「特に何も。ただただ、晩御飯拒否されたのが悲しかったんじゃない?」
私が帰ってくるまで待っててくれたのかな。いつも手伝うのに、今日は一人で作らせて…。
冷めたら美味しくないのに。
もう一度温めるのも…面倒だっただろうなぁ。
「…私、最低…。」
連絡したくなかった。大ちゃんのことを少しでも忘れたくて、関わることを避けた。
『無理に忘れようとしなくたって良いだろ。』
智樹が言うように、無理に想いを殺さなくても良いのかな。
でも、こんな風に気まずくなるなら、スッキリ忘れて…。
「ただの幼馴染になれたらいいのに…」
ポロッと口からこぼれた言葉を聞いて、春太はクスクスと笑う。
「無理でしょ。姉ちゃん、めちゃくちゃ大ちゃんのこと好きじゃん。」
「…………弟にバレるの恥ずかしいな…」
「え、逆に隠す気あった?」
隠すとかそういうのじゃなくて、大ちゃんで脳内がいっぱいだった。周りの目を気にしていないから、多くの人に好意がバレていた。
ただ一人、大ちゃん本人を除いて。
「…うわぁぁあぁああぁー…」
「その声、何とかならないの?」
「だってぇ…」
「何に対して悩んでるのか知らないけど、大ちゃんに謝ることあるなら後で謝れば良いじゃん。とりあえず言えることとして、俺、2人が仲悪くなって板挟みとか本当勘弁!」
「……うん。」
謝ろう。
連絡しなくてごめんなさい?
いや、晩御飯、待っててくれたのに一緒に食べれなくてごめんなさい?
全部か。
好きになったこともごめんなさい。
兄として見なくてごめんなさい。
ただの幼馴染に………。
なりたくないよ…。
まだ…変わらずに大好きだから…。
「今から大ちゃんの部屋行ってくる…」
「ん。」
ドタバタと2階へと上がり、自分の部屋の扉を開ける。
会って何を話そう。
そんなの考える暇も設けずに、私はベランダへと飛び出た。
「大ちゃーん!」
近所迷惑にならない程度に、なるべく大きな声で呼びかける。部屋の明かりはついているし、シルエットが動くのも確認できた。
少しだけ暖かくなってきた春の夜。
ただただ好きな人の顔が見たくて、私は名前を呼んだ。
「大ちゃん!」
2回目。シルエットがだんだんと小さくなり、近づいてくることがわかった。
全身が心臓になったみたいにドキドキ高鳴る。
そしてその数秒後、ガラリと窓が開く音が耳に響いた。
「……何?」
ほんの少し、元気がなさそうな大ちゃんの声を聞いて一歩後退りする。
負けちゃダメだ。逃げちゃダメだ。
「……迷惑なのわかってる!わかってるんだけど…!」
「大ちゃんのことが大好き…!」
あ…れ…?
違う。謝って、ごめんねって伝えて、許してもらえたら…。
こっそり、ひそかに…想っていようって思ったのに…。
「ずっと幼い頃から好きだったの…!優しくて、いつも助けてくれて、大ちゃんが隣にいてくれたから毎日が楽しかった!!」
止まらない。
「突然告白してごめん!戸惑わせてごめん!」
「……」
「今日連絡しなかったのもごめんなさい。心配かけてごめんなさい…。」
きっと、これから進む道は茨の道。
苦しくて息ができないような、過酷な道。
知るもんか…。
「振り向いてもらえるように頑張る!!」
その一言だけ伝えて、私はベランダの柵に手をかけた。
「っ!おい!危ない…!」
そして勢いよく、大ちゃんに向かって飛び移った。
何とか無事に飛び移れたけれど…。
《ドンっ》
咄嗟(とっさ)に受け止めようとした大ちゃんを下敷きにして着地する。
「いっ…た…」
「大丈夫!?」
「飛び移るなら言えよな…。もし失敗して落ちたら骨折じゃ済まないかもしれないだろ…。」
「うっ…ごめんなさい…」
「ふっ…お前、謝ってばっかりだな」
ふんわりと笑う好きな人の表情は惹かれてやまない中毒性がある。
「私、大ちゃんに依存してる…」
「……おぉ…う?」
反応に困る大ちゃんも可愛い。もっと困らせたい気持ちにもなる。
「そろそろ退いてほしいんだけど…」
上に乗ったまま私は彼を見下ろす。
目が合い、息遣いが重なった。
「………好きだよ。」
「……もう知ってる…」
「……………本気だよ?私。」
本気で大好きな人だから。
宣戦布告だ。
「っ…!」
不意をついて、私は幼馴染の唇を奪う。
「叶わない、なんて思ったら…ずっと叶わないんだ…。」
驚いた顔をして声を喉奥で鳴らす大ちゃんを『ざまぁみろ』という表情を浮かべて直視する。
「絶対に好きになってもらうから!覚悟して!」
フッと笑みを見せて、私は大ちゃんの顔をのぞいた。
見てろよ。
絶対に惚れさせてやるんだから!