ベランダでキスする関係の名前は?
美鈴side
借り人競走。確か大ちゃんは6走目に走るって言ってた気がする。
「……えっと…あ、いた!」
左から2番目。赤色のTシャツ。
(………私を選んでくれないかな。)
よくあるお題は『好きな人』らしい。
そんな都合が良い話があるわけないのはわかってる。わかってるけど、そのお題を引いた大ちゃんが私のところまで走って来てくれれば良いのに。
手を引かれて、一緒に…。
白線を超えて、ゴールテープを纏って駆け抜けたい。
《パァン!》
先ほどよりも大きく聴こえるピストル音。
一瞬にして私は妄想の世界から現実世界へと引き戻される。
でも、大きな期待は胸に抱いたまま、甘い気持ちになって頬が緩んだ。
銃声から数秒後。
「美鈴!!」
ふと名前を呼ばれて顔を上げる。
聴き馴染みのある声に、心臓が大きく音を立てた。
そして私に手を差し出したのは…。
「俺と来て!」
智樹だった。
「えっ、智樹? てか、私!?」
「早く!」
ピラっと見せられたお題の紙には『同じ中学だった人』と書かれていて…。
『あぁ、なるほど。』と、納得。
「行くぞ」
手首を掴まれて開けた場所まで連れ出されると、私に合わせた速度で智樹は走り始めた。
沢山の人が行き交う、そんな人混みの中で。
「美鈴…」
「っ…」
すれ違う瞬間、耳元で私の名前が小さく呟かれる。
「だい…ちゃん…?」
振り返ると、そこには大好きな幼馴染の姿があった。
今日1番の近さに胸を高鳴らせている間、一瞬にして彼は遠ざかる。
「……」
片想いなんて、こんなもんだ。
期待に胸を膨らませて、甘い妄想をして。
『ゴール!! 1位は青組1年生!』
現実とのギャップに悩まされて、膨らんだ期待は呆気なく押し潰される。
上手くいかないって、頭ではわかってるのに。
今も、私の方に来て手を引いて欲しい、なんていう願望を捨てられないから…。
「私ってどうしようもないな…。」