ベランダでキスする関係の名前は?



「大ちゃん、推薦で大学行くの?」

「……行かないよ。」

「なんで?」

「美鈴の隣にいるって決めたから。」


自分の言葉が呪いのように誰かを縛ってしまうものなのだと、気づき始めた今日。


「……大学って遠いところ?」

「……他県。」


先日、適当に進路調査書を提出した。その次の日、有名大学の資料等もろもろを大ちゃんの部屋で見つけた。


「長年、幼馴染やってきたからわかるんだよね。」

「………なにが?」

「大ちゃんの行きたいところ。やりたいこと。進みたい道。その他諸々。」


行きたいんでしょ?


だから、解放してあげよう。


「………私が引き留めると思った?」

「っ…引き留めるっていうか…俺が美鈴と離れる心の準備ができてなくて…」

「心の準備とかいらないし。そもそもその準備の完了とか待ってられるほど現実甘くないし。」


私は誰よりも我儘だ。


「………離れるのなんて長くて2年間くらいじゃん。その期間、ずっと会えないわけじゃないし。平気平気!」


そして誰よりも依存性が強い。


「…………追いかけてもいい…?」


引き留めない代わりに、最大の我儘を私は大ちゃんにぶつける。


「……私の目標とか夢を…全部大ちゃんにしていい…?」

「夢?」


私の言葉の意味を理解するべく、必死に考えている大ちゃんの胸ぐらを掴む。それに驚いて目を大きくしている幼馴染にキスをして…。


「私が立派な大人になったらお嫁さんにして!」


夢の先にあるのは一生、大ちゃんの隣に立つ権利。大ちゃんのために立派な職業に就く。やりたいこと、向いてること、それはじっくり自分で沢山悩むから…。



「2年間、離れてあげてもいいよ。だから…いつか…私と結婚して!」



恋愛一色な脳みそを人に笑われるだろうか。男の人に人生捧げるなんてバカらしいと否定されるだろうか。

他の人なんてどうでもいいか。

大切なのは、自分が何をしたいか。


「……自分の気持ちに正直になれって言ったのは大ちゃんだよ。大ちゃんが進みたいように進んだ道を追いかける。それが私の夢!だとしたら…いつまでも隣にいないで、先に進んでよ。」

「…………アホか…お前は…」


たとえ本人に、この決意を拒絶されても。


「諦めないよ。私、我儘で依存しまくり人間なので!」


フンっと自慢げな表情で自分よりも高い位置にある大ちゃんの顔を見つめる。
それから数秒後、観念したように大ちゃんは…。


「……っ…はは!降参するよ…っ…」


笑った。


「………ごめん。美鈴。」

「……謝罪は大学受かってからにしてくださーい」

「それもそうだな」


ポンポンと頭を撫でながら大ちゃんは優しい眼差しで私のことを見つめた。


「……美鈴の人生を預かるからには、目一杯幸せにできる大人にならないとな。」

「……その言葉…プロポーズ了承していただいたと勘違いしますが良いですか?」

「勘違いじゃないよ」


柔らかく笑みをこぼした大ちゃんは私の唇に自分のそれを重ねて一言。


「………俺、美鈴がいなくて耐えられるかな…?」


一度、私をフっているくせに。喉奥まで皮肉めいた言葉が迫り上がってきたが呑み込んだ。


「……指輪買って、一緒に住む場所決めて…。あ、美鈴のお母さんに挨拶しないと。……今更感否めないけど…」


私よりも気が早くて可笑しい。
つい吹き出してしまった私を見て、つられるように大ちゃんは笑った。


「私はやりたいこと探す!で、もっと家事が上達できるように頑張る!」


「美鈴」


「?」


「……好きだよ。」


「私も!」



一緒にいられる未来を目指して頑張ること。


それが私の、今の目標。













Fin.
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