眼鏡王国記 ~グラッシーズの女神~
そこへ、
「敵が進軍を開始しました!」
最悪の知らせが入る。
続いて、間髪置かずに敵方から沸き上がる怒号と砂煙。
「ガアアアアア!」
「グオオオオオッ!」
醜悪な魔物の群が目を血走らせ、突撃を開始していた。
こちらの軍勢は騎士団が百名ほど。それに対し相手は、人間の3倍はあろかという体躯の巨人を含め恐ろしく凶悪そうなフォルムの魔物がおよそ十倍はいる。
戦などとは無縁の暮らしを送ってきた綾乃でさえ、一目で勝ち目がないと悟ってしまうほどの圧倒的な戦力差だ。
まともに戦りあって勝てる見込みはゼロに等しいだろう。
だからこそ、ルシウスたちは綾乃の持つ眼鏡を召喚したのだろうが、使えないものはどうしようもない。
「ど、どどどうするんですか!」
「確か神具の力を引き出すには鍵となる呪文が必要です。神具を持つ以上、神具には認められているはずですから、それさえ分かれば力を使えるはずです」
「よし、それだ! お前が所持しているんだからお前が使い手だ! いけ! ドカンとかませ!」
「そんな無茶苦茶な!」
……とは言うものの、あっという間に魔物の群は丘の真下まで迫っている。
このままでは、全滅。というか綾乃は訳もわからず見知らぬ世界で死ぬことになるのだ。運良く生き延びたとしても、ルシウスの言を信じるならあのグッドアイ卿とかいう変態のペットになってしまうのは必至。
(そんなのは、絶対イヤ! まだ、素敵な眼鏡彼氏だって出来たことないんだから!)
「あ~ん、もうっ! いいわよ! やりますよ!」
綾乃は半ばやけっぱちで、七色眼鏡に手を当てて思いつく限り呪文ぽいものを唱えてみた。
「ファ、ファイヤー!」