眼鏡王国記 ~グラッシーズの女神~
さらに、
「ファイヤーボール!」
隣から鋭いかけ声が上がったかと思うと、ルシウスの頭上に人の頭ほどもある火球が出現し、騎士団へ襲いかかろうとしていた魔物の群へと飛び込み爆発した。
綾乃はさきほどまでとは違う2人の凛々しい姿に思わず見とれてしまう。
正直かっこいい! とさえ思ってしまう。
……だが、それでも状況を一変させる効果はなく、一時しのぎにすぎないのは、後から後から押し寄せる敵を見れば明らかだった。
「さあ、いまのうちに私たちも呪文を」
「は、はい……」
と、その時だった────。
ドン! という炸裂音が起っこたかと思うと、続けざまに空気が弾けた。
「ふえっ!?」
突然の暴風。
綾乃は背を見えない壁に押され、
「きゃあああ!」
そのまま倒れ込むように坂に身を投げ出していた。
落ちる瞬間、遠くでグッドアイ卿が不快感120パーセントの笑みを浮かべているのが見えた。
おそらくは、彼が魔法を使ったのだろう。
が、いまはそれどころではない。
両手両足を揃えたきれいな万歳ポーズで、一気に坂を転がっているのだから……。
「ふえええええっ! ────ふぎゃっ! ……痛っーい!」
しばらく転がったところで、なにか弾力のある柔らかい物にぶつかりようやく身体が止まる。
かなりの距離を落ちたわけだが、クッションになってくれたもののおかげで怪我はないようだった。
運がいい。
綾乃は身体を起こし、自分を止めてくれた物体を確認するため顔を上げ──。
「フゴッ!」
「きゃああああ!」
──前言撤回。
運の悪いことに……、衝突したのは、丸々と太った二足歩行の豚の魔物だった。
「ブヒゴーーッ!」
豚は即座に綾乃を敵と見定めると、見た目とは裏腹に素早い動きで持っていた大斧を高々と振りかぶった。
避けている余裕はない。
綾乃は祈るように目を瞑ることしか出来なかった。
ズブリッ!
肉を切り裂く不快音が間近に聞こえる。
「痛っ!」
思わず声が漏れる。
──が。