眼鏡王国記 ~グラッシーズの女神~
「──あれ!? ……痛く、ない」
「ブヒィヤアアアッ!」
悲鳴を上げたのは、綾乃ではなく魔物の方だった。
慌てて目を開けると、豚の魔物は斧を振り下ろすことなく、その体躯を地面に叩きつけていた。
その後ろには、
「大丈夫か!」
白銀の剣を横薙ぎに振り抜いたファウストの姿があった。
ファウストが間一髪で敵を切り捨てたのだ。
「……た、助かった……ありがとう」
「ああ、気にするな。それよりド派手なのを一発頼むぜ」
「え、いやそれはまだ……」
「!? まだって、その為に下に降りてきたんだろ」
「それがその……、急に空気がバンッてなって背中をドンてされてコロコロコロって落ちてきたんです」
「はあっ?」
的を得ない答えにファウストが小首を傾げていると、思いもよらない場所から明確な回答が届いた。
「わぁたくしが~、華麗~な魔術で落として差し上げたんですよ~。わぁたくしが~」
さっと振り返ると、そこには。
「お前か!」
魔物たちの担ぐ御輿上で奇妙なポーズを取る残念イケメン、グッドアイ卿の姿があった。
「そこのお嬢さ~ん。あなたのその幼顔~、そしてその背丈と反比例したちい~さなお胸~! 君はわたくしの奴隷に相応しい~。だから~、こっちへおいで~んさい」
「胸は余計なお世話ですよ!」
強気で言い返したものの、その魔物以上の醜い動きに、綾乃は思わずファウストの後ろに身を隠す。
「おやおや~? 照れてるのかな~。 さあ! そのいかがわしい眼鏡をはずして~、わ~たくしの胸に飛び込んでおいで~」
「お、お断りします!」
「んん~? も~しかして、その眼鏡のブ男に脅迫でもされてるのかな~」
「ち、違います! それにファウストさんは、ちょっと強引ですけどブサイクじゃないです! 立派なイケ眼鏡です!」
「ああ~……。眼鏡を誉めるなんて、イケナイ子だ~。これはお仕置きが必要だね~」
そう言うとグッドアイ卿は不敵な笑みを浮かべ、腰に差していた短杖(タクト)をサッと突き出した。
「トルネード!」
直後、綾乃たちの周りに風が巻き起こる。