眼鏡王国記 ~グラッシーズの女神~
「チッ!」
「魔法!?」
そして、風は真空の刃となり2人に襲いかかった。
「きゃっ!」
綾乃のシャツを、スカートを、風は容赦なく切り裂いていく。
だが……、それが綾乃自身の身体に届くことはなかった。
「伏せろ!」
ファウストが、咄嗟に綾乃を抱きしめ覆い被さったのだ。
しかしそのせいで、
「ファウストさん!」
風が止むと、白銀の騎士隊長はぐったりと地面に倒れ込んでしまった。
「しっかりしてください。ファウストさん!」
「……油断したぜ。うっ……」
意識はある。が、あちこち切られたようで鎧の隙間から血が流れ出ている。
これでは戦うどころか、はやく治療をしなくてはならない。
だが、敵がそうさせてくれるはずもなく。
「おや~? かる~いお仕置きのつもりでしたが~。眼鏡騎士はよわ~いですね~。有名な黒縁の閃光はその程度ですか~」
グッドアイ卿がケラケラと笑いながら御輿ごと近づいてくる。
「なんてことするんですか!」
「おや、おや、おや。奴隷の分際でその口のきき方。ま~だお仕置きが足らないようですね~」
「え!? いや、お仕置きはもう結構です」
「で~はぁ! 奴隷決定~!」
「えっと、……それもイヤです」
「お~や? それではどぅしろ~と言うのですか~」
「え~と……このまま、魔物を連れて帰ってもらうというのはどうでしょう?」
「おおおっ! その手がありましたか~。────って、そんなわけあるかー! お仕置き決定!」
当然といえば当然。仮にも一軍の指揮官がそんな問答にひっかるわけはなく。
「サマンサちゃ~ん」
グッドアイ卿は相変わらずの変なポーズで短杖をかざす。
すると、どこにいたのか、彼の嗜好を全面に押し出した二頭身の女の子を象った大きな石の巨人(ゴーレム)が姿を現した。
園児服のようなものを着ている。
「へ、変態っ!」
そして、
「──いや、離して!」
どん引きする綾乃をその巨大な手で包み込んだ。