眼鏡王国記 ~グラッシーズの女神~
「綾乃!」
それを見たファウストが、痛みに顔をしかめながらも、立ち上がり剣を振りかざす。
だが、手負いのファウストの動きに先ほどまでのキレはなく。
「ダメ!」
「ぐはっ!」
石の巨人は開いた手でファウストを軽々と弾き飛ばしてしまった。
ドスッ! と鈍い音を立ててファウストは丘の斜面に激突。
さらに、石の巨人は分厚い指で起用に綾乃の腕を摘むと、ゆっくりと外側へ引っ張りはじめた。
「い、痛い!」
悲鳴をあげても石の巨人は顔色一つ変えず少しずつ力を増していく。
これには、さすがの綾乃も軽口どころではなくなる。
「やめ、いっ……くっ……」
額からは大量の汗が流れ、本当に手が引きちぎられるかもしれないという恐怖すら感じはじめる。
「あ~ははっ! いい~顔ですよ~。奴隷さ~ん。どぅ~ですぅ~? ごぉしゅじんさま~、に一生の忠誠を誓えば~許しま~すよ~」
(……た、助けて……だれ、か…………────って、ええええっ!?)
その時だった。
綾乃の僅かに開いた瞳に、それが映し出されたのは。
「うそっ!」
「どわあああああっ!」
なんと、宙に浮いたファウストが、凄まじい速度で飛んできたのだ。
そして────。
「おや~……?」
ドーン!
「ぎゃあああ!」
グッドアイ卿に見事に命中! さらに御輿を爆砕し、担いでいた魔物もろとも吹き飛ばした。
そのおかげか主からの命令が途絶えたゴーレムの動きが止まる。
綾乃が意味が分からずにポカンと口を開けていると、
「あ、綾乃様」
ルシウスがすぐ近くで息を切らせていた。体勢は杖のフォローモーションだ。
「ルシウス!? いまのあなたがっ!」
「はい。すぐに使える魔術があれだけだったもので。間に合ってよかったです」
「よくないわよ! ファウストを飛ばすなんて! 死んじゃうじゃない!」
「ご心配には及びません。彼は頑丈ですから」
「そういう問題ですか!」
綾乃は思い出したように慌ててファウストの落ちた辺りを振り返った。