眼鏡王国記 ~グラッシーズの女神~
すると、
「痛たたた……」
昏倒したグッドアイ卿の上で、起きあがる彼の姿があった。
確かにあれだけやられて痛いで済むなら相当タフなのだろう。
ともあれひとまずは無事なようで、綾乃はほっと胸をなで下ろした。
そこへ。
「綾乃様。お伝えするのを忘れていましたが、その神具の名前は【アーラエ】です」
「アーラエ?」
────と。
ふいに伝えられた言葉を復唱した。その瞬間────。
「きゃっ!」
突如、七色の眼鏡が眩い光を放ちはじめた。
そしてそれは、綾乃を丸ごと包み込んでいく。
「な、なにこれ!」
身体中に力が漲り気分が高揚していく。
「おお! 凄まじい魔力です! おそらくは所持者が名を呼ぶことが鍵だったのです」
「……だったのですって、どうして棒読み。──って、もしかして最初からこうなることを知ってたんですか!」
「さて……、なんのことでしょう。私はただ、騎士団と綾乃様が起き抜けのコボルドのような間抜け面で右往左往する姿がほんの少し見たかっただけなのですが」
「確信犯じゃない!」
「それよりも、いまのうちにその力で石の巨人を倒し、残りの敵も粉砕してしまいましょう」
「あとで覚えてなさいよ! ──それで、やり方は?」
澄まし顔のファウストを睨みながらも、高揚しているせいかそこまで怒りは沸いてこず、綾乃は先にやるべきことを優先させた。
「すでに綾乃様はアーラエと魔力を共有しています。あとは、思いついた呪文を唱えるのみです。今ならどんな言葉でも呪文となりえるはずです」
「どんな言葉でも……。わかりました。やってみます」
綾乃は、目を閉じて自然と浮かんでくる言葉を探す。
(どうせなら、カッコイイ方がいいわよね)
しかし、
「そぉ~はさせませんよ~! な~にをたくらんでいる~眼鏡どもめーっ!」
いつの間にか目を覚ましていたグッドアイ卿が短杖を振りかざした。
こちらへ向かっていたファウストも距離があり、誰も止める手だてがなかった。
「きゃあああ!」
再び石の巨人が動き出し、先ほどよりも強い力で綾乃の両腕を引きはじめた。
ミシミシと腕が悲鳴を上げる。
その味わったことのない苦痛で、綾乃は意識を手放しそうになる。
「綾乃様!」
「綾乃!」
「サマンサちゃ~ん!」
ルシウスとファウストの声が遠くに聞こえる。
(……せっかく……かっこいい呪文を……考えてたのに……)
綾乃は薄れゆく意識の中で、咄嗟に頭に思い浮かんだ言葉を紡いでいた。
「め、眼鏡ビーーームッ!!」