眼鏡王国記 ~グラッシーズの女神~
「──ちょっと、眼鏡神!」
ガバッと起きあがると、綾乃は目の前にある物を勢いよく掴んだ。
「あごぉう!」
しかし、それは一瞬前でそこにいた眼鏡神ではなく、
「あ、あやのざば、ごぶじでだにどでぃ(綾乃様、ご無事でなにより)」
銀縁眼鏡の宮廷魔術師ルシウスの首筋だった。
「綾乃! 怪我はないか」
その隣にはファウストもいる。
「ここは……」
見回してみれば、そこは先ほどまでラーガン帝国軍と眼鏡騎士団が激戦を繰り広げていたアルス平原。
眼鏡王国に戻ってきたのだ。
「どういうこと!?」
「覚えてないのか? 綾乃がアーラエの力で敵を吹き飛ばしたんだ。そりゃあ凄かったぞ。半べそで逃げていくグッドアイ卿、見せてやりたかったぜ」
「そう……でも、──そんなことより大変なの! あたし、帰れなくなっちゃた! どうしようファウスト」
「あ? 帰れない?」
「そう、フリマにいたホストさんが眼鏡神で、アーラエが先走って、それでも結果的にみんなを救ったはずなんだけど、ええと……、すべてが終わるまでは帰れないって、言われちゃって……」
早口でまくし立てる綾乃にファウストは一度だけ小首を傾げた後、肩にポンと手を置いた。
「よくわかんねえけど、すべてが終われば帰れるんだろ」
「まあ、そうなんだけど……」
「じゃあ簡単だ! ここにいればいいさ!」
「ここって!?」
「この眼鏡王国に!」
「えええっ!?」
「うぐえええ!」
驚く綾乃に、その勢いでさらに首を絞められ唸るルシウス。
「お前は、帝国を退けてくれた俺たち騎士団の女神だからな」
ファウストの言葉に、周りを取り囲んでいた騎士団の面々から歓声が巻き起こる。
「女神様!」
「バンザーイ!」
「「「女神様バンザーイ!」」」
「あ~ん、もう、みんな恥ずかしいよ~」
「ぞれにじでば、うでじぞうながおぉじで(それにしては、嬉しそうな顔をして)」
「してません!」
「うぉごおぁっ!」
綾乃は先ほどのお返しとばかりにルシウスの首を掴んだまま、その口からは嬉しいとも困惑ともとれる悲鳴がこぼれるのだった。
「もう~、どうしよう~」