眼鏡王国記 ~グラッシーズの女神~
一章
「……ええと、もう一度言ってもらえますか?」
新田綾乃は、口を半開きにしたまま、かれこれ5回目となる同じ質問を繰り返していた。
「はい。ここは王宮の地下神殿です。私は宮廷魔術師のルシウス。こちらが騎士隊長のファウストです」
それに対して銀髪、銀縁眼鏡の男性はイヤな顔一つせず、自分と隣にいる黒髪、黒縁眼鏡の男性を指さし同じく5回目となる答えを笑顔で返した。
「先ほども述べました通り、現在我が国は滅亡の危機に瀕しています。そこで我々は、強力な武器となる神具(アーティファクト)召喚の儀を執り行いました。すると、綾乃様が現れたというしだいです」
(綾乃【様】? あーてふぁ?)
綾乃は脳をフル回転させているが、まったく男性の言葉を理解することが出来なかった。
いや、言葉自体は伝わってはいる。名前を教えたのも自分だ。
だが、言っていることが荒唐無稽すぎて、脳がそれを現実だと認識しないのだった。
学校では変わり者で通っている綾乃ではあるが、いくらそうであっても地下神殿だとか魔術師とかいう言葉は日常あまり飛び交うものではない。
しかも、二十歳前後の真顔の男性の口からとなれば尚更だ……。
仕方なく綾乃は、どうしてこんな状況になったのか、一から思い出してみることにした。
あれは……。