眼鏡王国記 ~グラッシーズの女神~
だからいま綾乃が、2人が大好きなイケメン眼鏡なのをスルーして、首を15度傾けて口を半開きにしたおまぬけ面をしていても、まあ、妥当な表情なのであった。
相手の話をそのまま信じるなら、ここは綾乃の知る世界ではない。
召喚というぐらいだから、魔法なんかがある異世界ということになるのだろうか?
現実にそんなことが起こりえるものなのだろうか? と思いながらも綾乃は思考の末、なんとか状況を整理し口に出してみた。
「……。ようするにこの眼鏡が国を救うためのアーティなんとかで、これを呼ぶ時に、たまたまかけてたあたしも一緒についてきた、ということですか?」
しかし……、
「おい、やっぱり失敗したんじゃねえのか?」
「いや、そんなはずはありません。あの眼鏡は色、形すべて古文書通りですし、身につけているのですから彼女はその持ち主でしょう」
「あんなガキが神具の使い手だっていうのか? それにしてはかなりアホ面だぞ」
「確かに一風変わったご尊顔だということは否めません。が、神具は主を自ら選ぶと言われています。所持している以上、盛りのついたゴブリン顔でも神具に認められているとみて間違いないでしょう」
2人はなにやら失礼な物言いで揉め初めてしまう。
「……」
「あんな奴に俺たちの、この国の運命を託すのか!」
「他に方法はありません」
「やり直しは?」
「宝物庫と私の所有するすべての魔晶石(ましょうせき)は、今の儀式でほぼ使い切りました」
「まじかよっ!」
ひとしきりボソボソと話し合った後、2人は意を決したように見つめ合い頷きあった。
そして……。
「綾乃様、どうぞ我々にお力をお貸し下さい」
「頼む」
「なんとなく状況が分かっても、すっごく不愉快なんですけど!」
綾乃はそのやりとりに頬をぷくっと膨らませる。
が、
「突然召喚してしまい、ご無礼は重々承知の上です。しかし、このままでは我が眼鏡王国(グラスランド)は滅びてしまいます」
「えっ!? 今、なんて言いました!」
綾乃にとって聞き捨てならない言葉が耳に届いた。
「突然の召喚?」
「そこじゃなくて」
「盛りのついたゴブリン顔」
「それ忘れなさい! もうちょっと後の方よ」
「眼鏡王国」
「そう! それよ!」
ルシウスの言葉に、綾乃の表情が嬉々としたものへと豹変する。
「ここは眼鏡の王国なの!?」
眼鏡の王国……大の眼鏡好きの綾乃にとってそれはなんて甘美な響きだろうか。
「じゃあ、いろんな眼鏡があるの!?」
「は、はい」
「それをみんなかけているんですか?」
「ええ、まあ……」
大好きな眼鏡。しかも、よりにもよって眼鏡王国!
響きだけでもごはん3杯はイケる!
(夢なら醒めないで!)
結局のところ、綾乃は現在の奇想天外な状況も忘れ、
「みたい! みたいみたい見たい!」
先ほどとは、ひと味違ったまぬけ面で子供のように駆け出すのだった。