眼鏡王国記 ~グラッシーズの女神~
「ラーガン帝国って、相手は人間じゃないんですか!」
「魔物では役不足ですか?」
「そういう意味じゃないです!」
その異様さに綾乃は焦ってつい声を荒げるが、一人だけローブ姿のルシウスは、しれっと答えた。
「ですが、率いているのはもちろん人間です。ご覧ください。あの前衛の中央付近に見える男。あれが、指揮官のグッドアイ卿です」
言われるがまま目を凝らすと、確かに先頭付近に御輿のようなものに担ぎ上げられた、長髪で綺麗な顔立ちの男性の姿があった。
しかし、美形ではあるものの、決して趣味の良いとは言えない金ピカの戦闘服を羽織り、ヘンテコな身振りで檄を飛ばしている。所謂、残念なイケメンの類だ。
すると、視線に気づいたのか、グッドアイ卿はこちらを見上げ、ふいにニターッと顔を歪めた。
「な、……なんかキモいです」
「おお、さすがは綾乃様。お目が高い! 外見に惑わされがちですが、彼は6歳以上16歳未満の幼い少女好きという類まれな嗜好の持ち主です。おそらく綾乃様も見ため的には彼の守備範囲かと」
「絶対倒す!」
「まあ、そう目くじらたてるな。だれが相手だろうとその神具を使えば一発だろ」
綾乃が鼻息も荒く拳を握りしめると、今度はファウストも敵を前にしながらルシウス同様、余裕の表情を見せた。
「あっ……」
一瞬、乗せられそうになったものの、2人の表情に流石に恐ろしいものを感じ、綾乃は七色の眼鏡を両手で摘んでゆっくりと差し出した。
「あのう……」