特別な日の幸せ


「いいなあ、俺も弁当作ってくれる彼女ほしー」
「作れば」
「そんな簡単に言わないでくださいよ」
「しょっちゅう合コンしてるだろ」
「なんかねー、ピンと来ないんすよ」
「そう言ってるうちは見つからないんだよ」
「どうしたら実希さんみたいな人が見つかるんですか〜?」
「お前には無理」
 彼女みたいな人が、そう簡単に見つかってたまるか。
「ひどいなあ、石川さん」
 そう言いながらまた伸びてきた手をガシッとつかんだ。思い切り力を入れる。
 最上が声にならない声を上げた。
「人の弁当を奪っていくな」
 手を離すと、ハーッハーッと息を吐いて痛がっている。
「いたいっす……」
 情けない声を出して、ジト目で見てくる。
 俺は無視して弁当を食べた。
 お前にこれを食べさせる訳にはいかないんだよ。
「さっきの卵焼きの代わりにあげますよ」
 もう立ち直った最上が、コンビニ弁当に入ってた卵焼きをくれた。
 形は整っている。
「もらっとく」
 コンビニ弁当の卵焼きを口に入れる。
 これはこれで、まあいいんだけど。
 でも、彼女が作った卵焼きの方が、断然おいしい。俺の口に合うんだと思う。
「実希さんに、今度俺の分も作ってって言ってくださいよ」
「絶対言わない」
「えー、前にもらったおにぎりおいしかったのに」
「死んでも言わない」
 最上がニヤッと笑う。
「石川さん……実希さんのこと、大好きっすね」
 ああそうだ。俺にはもったいないくらいの彼女だよ。
 その彼女が作ってくれた弁当なんだ。
 お前には絶対にやるもんか。
「悪いかよ」
「いやあ、いいなあ。そういうの」
「しゃべってないでさっさと食え」
 そう言ったら、最上はあっという間にコンビニ弁当を食べ終わった。
「今日はやらかすなよ」
「気をつけまっす」
 返事だけはいいんだけどな、こいつ。
 お調子者で困る時もあるけど、その明るさに助けられることも多い。

 空になった弁当箱に向かって手を合わせる。
 『ごちそうさま』は、作った人への感謝の言葉。
 今は隣に最上がいるから口には出さないけど、心の中で言う。

 弁当箱を片付けていると、視線を感じた。
 最上が、ニヤついた視線を送ってきている。さっき、手を合わせたのを見ていたらしい。
 チラッと見て、無視した。反応すると、面倒なことになりそうだ。
 それよりも、仕事に戻らないと。途中になっていた作業を早く終わらせたい。

 午後は、仕事に集中できた。
 おかげで、いつもよりも少しだけ早く帰ることができた。




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