特別な日の幸せ
リビングに戻ると、すっかり食事の準備ができていた。
「お母さん元気だった?」
「うん、よろしくって」
彼女は頷いた。
「じゃあ食べよう」
はい、と缶ビールを手渡される。
「ちゃんとしたお祝いは、週末にするからね。とりあえず、これ」
彼女が差し出したのは、普段着にするようなボタンダウンのシャツだった。
「いつも使えるからいいかなって思って」
嬉しい。
自分のことを考えて選んでくれた。それだけで。
「ありがとう」
笑顔で言った。
彼女は、少しはにかんで、缶ビールを開けた。
「誕生日おめでとう」
乾杯する。
「ありがとう」
ビールは、いつもよりもおいしかった。
オムライスは、最高だった。
後片付けをしようとしたら、彼女がやると言う。
「誕生日サービスね」
そう言って笑ったのが可愛くて、シンクに食器を置いた彼女を後ろから抱きしめた。
彼女は、ふふっと笑う。
「お風呂入ってきて。入浴剤置いといたから、入れてあったまってね」
「うん……じゃあ、お言葉に甘えてお先に」
後ろからほっぺたにキスすると、ピクッと反応した。
可愛かったので、何度かくり返す。
彼女は照れながら、身をよじって逃げようとした。
「も、もういいから、わかったから」
逃がさないように、ぎゅっと抱きしめてささやく。
「続きはベッドでする」
彼女の動きが、ピタッと止まる。
顔を見たら、赤くなっていた。
……可愛い。
「……実希」
思わず、唇にキスをした。
長くしていたら、彼女がトントンと胸を叩いた。
「もうわかったから、早くお風呂入ってきて」
背中を押されてキッチンを出る。
まだキスをしていたかったけど、風呂に向かった。
洗濯機の上には、着替え一式と入浴剤1回分の小袋があった。
彼女の心遣いが嬉しくて、顔がニヤけてしまう。
……幸せだ。
鏡に映った自分の顔が、信じられないくらいゆるんでいる。
カッコ悪いけど、まあいいか。
3ヶ月先の彼女の誕生日をどう祝おうか、考えながら、風呂に入った。