マネキン少女
ヒロの形の良い唇がゆっくりと開き、言葉を発する。


「虐待!」
「へっ?」
「俺、虐待に合ってるの!」
「ち、ちょっと!もしかして、殴られたりしてるの!?」


夏なのに長袖を着ているヒロの服に手を伸ばすと、大きな手の平によって阻止される。


「殴られるより酷い……。だって、3日もカレーが続いてるんだよ!!カレーライスが2日連続来たから、やっと普通の飯にあり付けると思ってたのに……。朝、、、今日のご飯はカレーうどんだっておふくろに宣告されて!俺、死にそ!!」
「……」
「るるちゃん!助けてよ!!」


だよね。


こんな、綺麗なヒロに闇なんてある訳ないよね。


私、期待しちゃって馬鹿みたい__


ガックリしながら無理矢理笑顔を作る。


「カレー3日は虐待だね!」
「ひでえだろ!」
「ヒロ君の母親は、悪魔のようだ!!」
「ああ、そうだよ!まさに、人間の皮を被った悪魔だろ!?」
「……」
「……」


心地の良い沈黙が続いたかと思うと、春の柔らかい風のような笑い声が耳に響く。


久しぶりに心から笑えた気がした。


不思議な事に笑うだけで、鉛のように重かった心が軽くなった気がした。


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