皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
立ち上がった私は、そのまま食器を集めて、小屋の外にある洗い場へと向かった。
背後に聞こえた「待って!」という声は聞こえないフリだ。
この“招待状”が届いたのは、確かひと月前のこと。
どういう基準で配布しているのかはわからないけれど、原則として、届いた家庭は舞踏会に参加をしなくてはならない。
もちろん行きたくない私は、ビリビリに破り捨てようとしたのだけれど、『俺が行くから!』と必死な兄さんに免じて、仕方なく断念した。
とはいえ、この帝国では“仮面舞踏会イコール参加”の方程式の風潮が出来上がっている。目立つことは避けたい。
だから、兄さんには、ちゃんと何度も確認したのに。
『任務は大丈夫なの?』
『本当にいけるの?』
なのに⋯⋯!
こんなのあんまりよ!
母に似ておっとりマイペースな兄さん。気が強いだの勝ち気だの言われて育ってきた私。
性格は正反対だけれども、風貌はとても良く似ていると言われている。
蜂蜜色の髪ベリーショートヘアの兄と、同色の背中まで届く緩やかなくせ毛の私。ヴァルフィエの海のようなエメラルドの瞳に、ツンとした細く高い鼻筋。そして薔薇のような唇。
その美しさで評判だった母の血を色濃く引いていると、お父様はよく豪語していた。
そんな麗しい兄妹とも言われてきた私たちは、普段はとっても仲がいい。
私が多少わがままを言ったとしても、包容力があって穏やかな兄さんが「仕方ないなぁ、アイリスは」というのがお決まりの展開だったから。