皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
「――別に意地悪がしたくて拒否してるわけじゃないのよ。兄さんには苦労かけているから、できれば行ってあげたいとは思ってる。だけど――」
「わかってるよ」
本心を捲し立てていると「落ち着け」と私の頭に大きな手が乗った。
「アイリスは家事を請け負ってくれる上に、花屋の手伝いで家計だってを助けてくれてるんだ⋯⋯逆に頭が上がらないのは俺の方だよ」
顔を上げると、揃いのエメラルドの瞳が優しく緩んでいた。しかし、奥底に秘める鋭さは、任務に赴くときに見せるもので、逃してはもらえなさそうだ。
「ただ、今回は俺も困っているから、助けて欲しい。帝国騎士団たるもの、団長が不在のときに舞踏会で遊び呆けるわけにもいかないんだ」
やっぱりと、私は項垂れた。そのすがるような眼差しはずるい。
兄さんの仕事がどれほどヴァルフィエ帝国に貢献しているのはわかっている。真面目な兄さんは、誇りを持って常に任務と向き合っている。そんな彼をとても尊敬しているし、職種は違えど近所の花屋で働いている私も、仕事への責任というものを理解しているつもりだ。
ましてや騎士団ともなればその重要性は明白なわけで。個人的感情でどうにかなると思うほど、私も子供ではない
だからだ。こんな苦しくなるのは。
『行ってくれるか』と言いつつも、結局は兄さんが求めている答えはひとつ。