皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
数日前にはしびれを切らしたように
『いい加減顔を出せ』
と私の部屋の前で不満をあらわにして帰って行った。
でも――。
『アイリス⋯⋯泣くな。悪いことしている気分になるだろう』
ふと気を抜けば、あの日の悲しげな表情が、脳裏をよぎる。
甘やかに絡められる滑らかな舌の感触。こちらの様子を伺いながら責め立てるように、けれどもうっとりと腰を砕かすように施される⋯⋯甘美な口付け。
埋め尽くされるのは憎しみであったはずなのに、それによって心が支配されているような感覚に、度々陥る。
だめね。また彼のことを考えているわ。
ここでルイナードの手中に陥落すれば、傷ついて⋯⋯今度こそ立ち上がれなくなるのは――私だというのに。
青空と向き合って、はぁ、と大きくため息。
あんなことがあって、会えるわけないじゃない⋯⋯。
「―――意地じゃないから⋯⋯困るのよ」
「あ? なんか言ったか?」
「なんでもない」と空のバケツを手にした私はくるりと、部屋への帰路へとつく。