皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
私たち兄妹の父、ジャドレ=ロルシエは、皇帝の右腕ともなる有能な宰相だった。
能力だけではなく、とても豪快で、明るく優しくて⋯⋯。まさに人望に溢れた人柄。
ヴァルフィエの街でも庶民出の父を慕う声はよく聞き、私たちはそれが誇らしくもあった。
しかし、そんな父は十年前の『城内襲撃事件』で殺された。事件は深夜の執務室へ計画的に忍びこんだ皇帝の命を狙ったものであり、当時の衝撃は現在まで語り継がれている。
その実行犯は、昔から皇帝一族と対立する“反皇帝組織”の仕業、とされていているのだけれど⋯⋯
実際に、私が駆けつけたときは、彼らは大きく斬られ、おそらく息絶えていたと思う。
ただ一人を残して。
―――『殺したのは、俺だ』
そう宣言したのは、このヴァルフィエ帝国の皇帝陛下・ルイナード=グランティエ。
自分の側近である父を殺したと、そして私に父を殺したと、冷酷なる黄金の瞳で告げた
私の幼馴染でもある――“あの男”。
あの日から、狂しいくらいに私はルイナードを恨み、憎み。彼の住む皇城、そして、その舞台となった皇城に近づくことをひたすら拒んできた。
もう二度と近づかない。決して足を踏み入れないと決意していたのに。