皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
だから――
城に来て、浮かない表情ばかりをする彼女が、少しでも安らげればいいと思ったんだ。花を刈るのは慣れていないが、アイリスが笑ってくれると思えば自然と身体が動いていた。
5歳のアイリスも同じ気持ちでいてくれたのだろうか。
自らの赤らんだ指先を眺める。
『俺の想いは⋯⋯昔から何ひとつ変わっていないんだ―――』
心底困ったような顔をしていた。
「言うつもりなど、なかったんだがな⋯⋯」
庭園の中で、衝動的に彼女を抱きしめた二日前の温もりが蘇る。名前を呼ばれ感極まったとはいえ、混乱させてしまっただろう。
それまでの三週間。徹底的に避けられた挙げ句、ようやく会えたかと思えば、まさかあんなところを見られるとは⋯⋯。花に興味がないと言いながら、足繁く通うなど格好がつかないな。
俺は、いつものように、自嘲しながらひとりきりのベッドルームでグラスを傾ける。
ひとりでは持て余すほど大きな天蓋付きのベッドを中心に。ヴァルフィエ特有の小花の織柄のデーブルセットが庭園側に。それから季節はずれの暖炉と、低位置に吊り下がるオレンジ色のランプ。
この皇帝と皇妃の私室の間にある、“ふたりの寝室”に、彼女は未だ足を踏み入れたことはない。
コン、コン !!
そこで。彼女の部屋とは逆位置にある扉から、慌ただしいノック音が俺の思考を遮る。
「ルイナード陛下! クロードでございます! お休みのところ申し訳ありません!」
手にしていたグラスをそっとテーブルへ戻し、自然と眉間に力が入る。深夜らしからぬ慌ただしさにさざ波のような予感を感じた。