皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
「なーに、怖い顔しているんだよ! アイリス!」
部屋から出てきた兄さんが、バルコニーでボーッとしている私の頭をパシンと叩いて活をいれる。
クロードさんの説明が終わったあと、入れ違いにやってきたのはカルム団長の代役となった兄さんだった。
「もう、叩かないでよ。⋯⋯ちょっとぼんやりしてただけよ」
話を終えてすぐに外に出た私を心配してくれたんだろうけれど、今は一人にしてほしかった。
沈んだ気分を感じさせないようむくれて見せると、兄さんはカラカラと笑いながら隣にもたれ掛かる。
「――陛下なら大丈夫だよ。少しゴタつきを見に行くだけだ。それに、今じゃぁ、俺だって気を抜いて戦えばすぐに剣を弾かれるくらい強いんだ」
やっぱり兄さんには隠せないと、目を泳がせてしまった。
「⋯⋯別に心配なんて、していないわよ」
「意地っ張りだなぁ」
反論はしない。けれど、意地で囲われた気持ちの中身はとても複雑なのだ。
少しだけ、歩み寄るべきなのか? と思った、矢先の出兵。
まだ花に対してのお礼も何も伝えていないし。けれども頭の片隅には、父を殺したという憎しみも残っている。
様々な感情をひとつの袋に収められ、それらを出兵という出来事で掻き回されてしまったような気分だ。
どう処理したらいいのか検討もつかない。
――とまぁ、複数な胸の内をつまんで説明したけれども、兄さんは「ふぅん」興味なさげに肩をすくめるだけだった。