皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
そして――
翌日から式典の準備ははじまった。悩む暇なんてものはない。
クロードさんが初日に紹介してくれたのは、講師のケーラ先生。
一寸の乱れのないお団子ヘアーに、ギラリと光る赤縁メガネ。とっても神経質な雰囲気を漂わせる40代くらいの貴婦人だ。
毎日九時ぴったりに書庫に現れる先生は、キビキビした口調で、ヴァルフィエや近隣諸国の歴史、現代学、語学、そして法律など、今後必要とされる知識をまんべんなく叩き込んでくれる。
とても厳しいが、その分出来たときは褒めてくれるし。昔、ルイナードの勉学も担当をしていたこともあって、教え方は抜群にうまい。
そして、開始してしばらく経過したこの日は、城のシェフが作った昼食でテーブルマナーのおさらいをしていた。
「最初はどうなるかと思いましたが、テーブルマナーの方もだいぶ慣れたご様子ですね?」
「はい。ケーラ先生のご指導のおかげです」
私生活で染み付いていたを改善するのは大変だったけれど、毎日の食事を気をつける事で、最近は少しだけより良くなってきた⋯⋯気がする。
「アイリスさまはとても意欲的なので、陛下もさぞかしお喜びでしょうねぇ。わたくしの方も助かっておりますのよ」
「喜んでいるかはわかりませんが⋯⋯先生が助かっているならヨカッタです ――って、いてっ!」
「――と思いきや⋯⋯いけませんねぇ。気を抜くとすぐにお肉の一口が大きくなってしまうクセ! はしたないですわ!」
ケーラ先生はお馴染みの指差し棒を手にギラリと赤色眼鏡を光らせていた。
⋯⋯容赦なく手の甲に飛んでくるものは、結構痛い。