皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】

「彼、兄さんよりマメな人だったわよ。墓石も丁寧に拭いてくれたし、重いものだっていつの間にかもってくれたし。案外優しいんだから」

「ははっ、口は悪いけど、カルムさんは優しいよ。最初は墓石なんて蹴っ飛ばしそうな人だと思ったけどな」

「もう、怒られるわよ」


確かに。はじめのほうは「暑い」だの「面倒」だの文句ばかり言っていたカルム団長だけれど。慣れてきた頃には「そろそろ時間だぞ」と、声をかけてくれたり。荷物は何も言わずに持ってくれたり。そして、力作業は頼む前にすでに終えているといった、意外とジェントルマンだった。

口喧嘩ばかりしていたけれども。なんだかんだ私に付き合ってくれた彼にはとても感謝をしている。


そんなふう兄さんと笑顔を交わしながら、持ち寄った花瓶に、摘んできたグラジオラスの花を丁寧に挿した。

淡い桃色と純白が花茎に並び、剣のように鋭い葉がピンと空に伸びる。

そして、太陽のほうへ花の正面を合わせて、すこしでも光を浴びられるように調整する。

作業を終えると、ふと、墓前の前をもう一度確認するのが癖となってしまった。


――そこに、ついこの前まで、私より先に供えられていた花は、ない。

< 178 / 305 >

この作品をシェア

pagetop