皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
「兄さん⋯⋯」
「余計なことを」
朝から訓練所へ用足しに行っていた兄さんが、状況を察したように「失礼します」と入り口からこちらへと足を進めてくる。
そして、全員の注意が注ぐ中、たった今処置を終えたルイナードの前で膝をついて恭しく頭を下げた。
「陛下、お願い申し上げます。今のアイリスであれば、しかと組織の情報を受け止めることができるでしょう。よろしかったら話してやってはいただけないでしょうか?⋯⋯見ての通り出迎えてしまうほど、この三週間、陛下の帰りを待ちわびていたのです」
とんでもないフォローに目を白黒させた。
途端に、ハリス先生が包帯を回しながらクスクスと微笑み、ルイナードとはパチクリとした視線が絡みあってしまった。
なにも待ちわびていたわけじゃ⋯⋯っ!
大げさな言いように、ボボボッと頬に熱が籠もる。
でも、悔しいけれど、反論する言葉を見つけられない。
話したいことがあったのは本当だし。それに今の兄さんの言い方だと、ルイナードは私を案じて、話を切り出さなかったようにも聞こえて、どこか期待してしまう。
やがて、しばし間をおいたルイナードは、大きく息を逃がすようにして
「――聞いて、そんな楽しい話ではない」
観念したように打ち明けてくれた。