皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
「ふっ、物足りなそうな顔をしているな」
「⋯⋯してないわよっ」
ぶわっと耳まで熱くなるのがわかった。
「悪いが、我慢しろ。今は、時間がない」
悔しさあまって睨み上げると、なんとも嬉しそうに微笑むルイナードの顔がすぐそこにあって、口にしようとした反論は霧のように消えてしまう。
私は、何してるのよ。
なんだか無性に悔しい気持ちになって、スッと目線を落としたとき。
「――え?」
ルイナードのはだけたきったシャツの胸元から、信じられないものを見つけてしまい、衝動的に手をのばす。
「⋯⋯この傷、いつつけたの⋯⋯?」
胸の左側。心臓の近くともいえる場所に刃物で刺されたかのような傷跡がくっきりと残っている。
その存在を確認するかのように、こわごわと指先で、触れた。
舞踏会の夜は、暗くて気づかなかった。今日の額の傷など比ではない。みるからに深手の痕に、全身が凍りつきそうになる。
「⋯⋯傷など訓練で身体中にある。覚えていない」
ルイナードは“触るな”と言わんばかり、私の指先を払いのけると、シャツのボタンをとめて隠してしまう。
そのまま涼しい顔してクローゼットへ向かう姿からは、どことなく拒絶の意を感じた。