皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
――何かを隠している?
昔は無かった、古い傷の跡。
たったそれだけのはずなのに。
なんとなく見過ごしてはいけないような、そんな気がした。
――こんな大きな怪我、いつ⋯⋯?
そんなふうに悶々と思い悩みながら部屋を出ていこうとしたとき。
「――あぁ、待て」
突然、後ろから伸びてきた手に、開こうとした扉を閉められてしまった。
ドアノブから手を引いて、肩越しに振りかえると。
さきほどのフリルのシャツ。黒革のボトム。その上に深紅の皇帝装束を羽織るルイナードの姿。
公務は休まないようだ。
「⋯⋯なに?」
思ったよりも近いことから振り返る事はできず、真上から覗き込む冷涼な美貌をドギマギしながら見上げる。
しかし、彼は、何も答えず、ドアに右手をついたまま、ある一点をじっと見下ろしているだけ。
どこを見ているんだろう、と視線の先に追っていくと。
目線は少しだけふっくらした、私のお腹をじっと見つめていることに気づいた。
――もしかして
「気になるの? 触りたい?」
ピクリと落ちていた首が上がって反応を示す。
それから視線を左右に動かした後、私へと戻し
「⋯⋯いいのか?」
子供のようにパッと表情を変えた。
予期せぬ素直に反応に、私の方が居心地悪くなってしまう。
「⋯⋯あなたが父親でしょう」
嬉しい気持ちはあるのに、なんとなく素直になれない。